介護保険を知る・使う・活かす!サービスの利用方法を完全解説

長寿社会を生きる私たちにとって、介護は誰にでも訪れる可能性がある問題です。大切な家族にはできるだけ長く健康でいてほしいものですよね。しかし現実問題として、「突然配偶者の介護が必要になったが、どうしたら良いかわからない」、「将来的に親の介護が必要になるかもしれない」など、介護についての悩みや不安を持つ方も多いものです。

さまざまな心配ごとが浮かぶかもしれませんが、介護はひとりで抱え込まなくても大丈夫!介護される本人だけでなく、介護する側の負担を減らすことができるのが介護制度です。制度を賢く利用することで、働く時間を確保して社会とのつながりを得られたり、毎日の生活にゆとりができたりと、嬉しい効果がたくさんあります!

介護が必要になった方や介護について考え始めた方へ向けて、介護保険制度の内容や利用方法を解説します。「介護保険って何?」、「どのように利用したらいいの?」という疑問を解消しましょう!介護保険の制度を知ることで、介護生活への心配や不安が少しでも和らげば幸いです。

介護保険とは?基本を解説

介護保険は、介護が必要になった高齢者を支えるための公的保険制度です。介護保険制度を使えば、要支援・要介護状態になった方が、必要な介護サービスを利用したり、サービス利用費用の一部を補助してもらったりすることができます。

そもそも介護保険とはどのような制度なのでしょうか。介護保険の基本を解説します。

介護保険の対象は?誰がいつから利用できる?

介護保険の対象は主に年齢で区分されており、第1号被保険者と第2号被保険者の2種類があります。それぞれの対象者について見ていきましょう。

第1号被保険者

65歳以上の方は、第1号被保険者となります。
第1号被保険者となると、要支援または要介護の基準に該当する場合に、必要な介護サービスが受けられます。

  • 要支援:日常生活に支援が必要な状態
  • 要介護:認知症や寝たきり等で介護な必要な状態

なお、65歳になると、お住まいの自治体から介護保険被保険者証が交付されます。

第2号被保険者

40~64歳までの医療保険加入者で、特定疾病を患い、要介護認定を受けた場合に限り、第2号被保険者として介護サービスを利用できます。

特定疾病とは、介護保険施行令第2条で定められた以下の16の病気です。

  • がん(末期がん)
  • 関節リウマチ
  • 筋萎縮性側索硬化症
  • 後縦靱帯骨化症
  • 骨折を伴う骨粗鬆症
  • 初老期における認知症
  • 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
  • 脊髄小脳変性症
  • 脊柱管狭窄症
  • 早老症
  • 多系統萎縮症
  • 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
  • 脳血管疾患
  • 閉塞性動脈硬化症
  • 慢性閉塞性肺疾患
  • 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
利用するには要介護認定が必要

介護保険の被保険者となると、介護保険被保険者証が交付されます。しかし、介護保険被保険者証があるだけでは実際にサービスを利用することはできません。

介護保険制度を利用するには、要介護認定を受ける必要があります。介護サービスを利用したい場合には、まずは要介護認定を受けましょう。

要介護度とは

要介護度は、要介護認定において、対象者がどの程度介護が必要かを、要支援1~2、要介護1~5の7段階の介護認定区分によって分けるものです。要支援または要介護と認定されると、それぞれの区分や状況に応じた介護サービスが受けられます。

要支援、要介護、そして自立とはどのような状態なのでしょうか。それぞれの目安とともにご紹介します。

なお、要介護度は、介護を受ける予定の本人の生活や心身の状況などを調査したうえで、利用者それぞれの状態を考慮して判定されます。要介護度が示す具体的な状態や特徴については、決まった定義はありません。以下に紹介するのはあくまで目安ですので、参考程度にご覧ください。

要支援

要支援とは、日常生活は自分で行えるけれど、多少の支援が必要な状態です。要支援には、要支援1と要支援2の2つの区分があります。それぞれの状態の目安は以下の通りです。

  • 要支援1
    ほとんど自分ひとりで日常生活が送れるが、掃除など一部の家事に見守りや支援が必要な状態。
  • 要支援2
    要支援1よりも自分でできることが少なく、入浴時に背中を洗ったり浴槽を跨いだりする際に支援が必要な状態。

要支援となった場合、基本は自宅などの慣れた環境で継続して生活するための支援が行われ、在宅サービスの利用が中心となります。

要介護

要介護は、要支援よりも多くのサポートが必要な状態です。日常生活を送るうえでの基本的動作を自分で行うことが難しく、何らかの介護が必要なケースは要介護と認定されます。要介護は、心身の状態に応じて、最も軽い要介護1から最も重い要介護5までの5つの区分があります。

  • 要介護1
    歩行が不安定だったり入浴に介助が必要だったりと、日常生活に部分的な介護が必要な状態。
  • 要介護2
    歩行や起立が自力でできない、排せつや食事に介助が必要な状態。
  • 要介護3
    排せつ、入浴、着替えなど日常生活全般に介護が必要な状態。認知機能の低下や心理的な症状が見られることが多い。
  • 要介護4
    要介護3よりも動作能力が低下している状態で、介護がないと生活が困難な状態。自力での歩行や起立はほとんどできず、日常生活全般に介助が必要となり、理解力の低下が見られる。
  • 要介護5
    寝たきり状態など、介護がないと日常生活はほぼ不可能。おむつ交換や寝返り介助が必要で、意思疎通ができないことが多い。

要介護と認定された場合は、在宅サービスや施設入居サービスの利用など、それぞれに合った介護サービスの利用ができます。

自立

要介護認定において、非該当となった場合を自立といいます。基本の日常動作を自分で行うことができ、介護や支援がなくても生活できる場合は、自立と判定されます。自立となった場合は、介護保険サービスを利用することはできません。

ただし、自立となった場合でも、要介護状態になることを予防するための福祉・保健サービスは利用することが可能です。希望される場合は、お近くの地域包括支援センターに相談しましょう。

仕組みと費用

介護保険について、「介護保険料はいくら?」、「介護サービスを利用するときの自己負担割合はどのくらい?」といった費用面も気になるもの。介護保険の仕組みと費用について知っておきましょう。

保険料はいくら払う?

40歳以上の人は介護保険被保険者となり、毎月介護保険料を支払う義務が生じます。保険料は介護保険サービスを運営するための財源になる大切なものです。介護保険料の決まり方や平均金額、支払い方法について解説します。

保険料の決まり方

介護保険料の金額は、所得や地域によって違います。第1号被保険者の場合は、お住まいの市町村ごとの条例で定められた基準額をもとにして、前年の本人や世帯の所得などに応じた所得段階区分に分けられ、所得段階区分に応じた乗率によって保険料が決まる仕組みです。所得段階区分は基本的に9区分ですが、自治体によってはさらに細かく設定している場合もあります。

なお、第2号被保険者の場合も、前年の所得と世帯の被保険者数などで決まります。

例として、第1号被保険者が実際にどのくらいの保険料になるのか計算してみましょう。

A市の介護保険料基準額は5,000円、所得段階区分を9段階に設定していると仮定します。今回は、このうち3つの区分の保険料を算出してみます。

  • 第1段階:区分に応じた乗率0.30
    生活保護受給者、世帯全員が住民税非課税、本人年金収入が80万円以下の場合
    ⇒基準額5,000円×乗率0.30=介護保険料1,500円
  • 第5段階:区分に応じた乗率0.50
    本人は住民税非課税だが世帯に住民税課税者がいる、本人年金収入80万円以上の場合
    ⇒基準額5,000円×乗率0.50=介護保険料2,500円
  • 第9段階:区分に応じた乗率1.70
    本人は住民税課税者、合計所得金額が290万円以上の場合
    ⇒基準額5,000円×乗率1.70=介護保険料8,500円

このように、同じA市に住んでいる人でも、それぞれの状況や所得によって介護保険料額は異なります。基準額や区分などは、それぞれの市町村のホームページなどで確認することができますので、お住まいの市町村の情報をチェックしてみてください。

介護保険料の全国平均

厚生労働省によると、2024年4月の全国介護保険料基準額の平均は6,225円でした。ただし、市町村による差は大きく、最も高い自治体で9,249円、最も低い自治体では3,374円と、その間には約6,000円もの差があります。基準額や所得段階区分は、介護が必要な高齢者の数や、住民のサービス利用度などを踏まえ、国の基準を参考に各市町村によって設定されるため、自治体ごとに差が生じているのです。なお、介護需要の増加から、全国的には介護保険料は年々増額傾向にあります。

保険料の支払い方法

介護保険料の支払いは、40歳の誕生日の前日が属する月から徴収され、納税は生涯続きます。40~64歳は健康保険の一部として、65歳になると健康保険とは切り離され介護保険料として徴収されます。

第1号保険者(65歳以上)は、年金が18万円以上の場合は年金から天引きされる普通徴収、年金が18万円未満の場合は口座振替や納付書による特別徴収で支払います。

第2号被保険者(40~64歳)の保険料は健康保険料の一部として徴収されるため、会社に勤めている場合は健康保険料と一緒に給与から天引きされます。なお、他の社会保険料と同様に、介護保険料も勤務先が半分負担してくれます。

利用時の自己負担割合

介護サービスを利用した場合に、デイサービスや老人ホームなどの介護事業者へ支払う費用の自己負担割合は、1~3割と定められています。自己負担割合は、合計所得金額と65歳以上の世帯人数で決まります。65歳以上でひとり暮らしの場合は1割負担が基本です。ただし、現役並みの所得がある場合は、所得金額に応じて2割または3割の自己負担割合となります。

上限金額

介護保険制度では、1ヵ月ごとに介護保険の居宅サービスを利用できる上限金額として、支給限度額が決められています。上限金額は、例えば要支援1なら50,320円まで、要介護3なら270,480円まで、要介護5なら362,170円までと、要介護度によって異なります。

自己負担割合が1割の方の場合、上限金額の範囲であれば、介護サービスの利用料の1割が自己負担分となります。

例えば1ヵ月に30,000円のデイサービスを利用した場合、その1割である3,000円が実際に支払う金額となります。なお、上限金額を超えた分については全額自己負担となりますので注意しましょう。

入居型サービスを利用する場合、要介護度および、個室や相部屋など施設の条件によって自己負担額が異なります。入居施設を利用する場合には、かかる費用について事前によく確認しておきましょう。

介護保険の使い方:申請方法をわかりやすく解説

実際に介護サービスを受けるには、要介護認定の申請からケアプランの作成を経る必要があります。介護保険の使い方について、申請方法から介護サービスの利用開始までの流れを解説します。

ステップ1:要介護認定の申請

介護が必要になったと感じたら、まずは要介護認定の申請をします。要介護認定の流れをチェックしてきましょう。

認定の流れ

要介護認定は、市町村への申請から、調査、審査・判定、認定・通知という流れになります。認定までの流れを順に解説します。

市町村への申請

まずは、市町村の介護保険担当窓口に介護認定を受けたい旨を伝えます。地域の介護相談窓口になっている、地域包括支援センターに相談しても良いでしょう。

要介護認定を希望する旨を申し出たあとは、調査を行う日程を相談して決めます。

調査

市町村の調査委員が自宅などを訪問して、本人の生活状況、心身の状態、特別な医療の必要性などをチェックします。調査では、立ったり歩いたりなどの身体機能の様子や、トイレや着替えなどができるか、生年月日や名前が言えるか、徘徊の有無、もの忘れや情緒不安定が見られるか、薬やお金の管理や買い物などができるか、特別な医療を受けているかなどを、聞き取りや実際に動作を行うことで確認します。

同時に、市町村はかかりつけ医に主治医意見書の作成を依頼します。

審査・判定

審査は、調査の結果と主治医意見書をもとに、コンピューターによる一次判定と、介護認定審査会での二次判定の2段階で実施されます。なお、介護認定審査会は、保健・医療・福祉の専門家5人程度で組織されます。2段階の審査を経て、自立(非該当)、要支援1~2、要介護1~5のいずれかとして判定されます。

認定・通知

自立・要支援・要介護といった判定結果は、原則として30日以内に通知されます。もし認定結果に納得ができない場合は、介護保険審査会に不服申し立てをすることで、調査のやり直しができます。不服申し立てをする場合は、役所の窓口または地域包括支援センターに相談しましょう。

なお、認定結果の有効期間は、新規申請・変更申請の場合は原則6ヵ月、更新の場合は原則12か月です。ただし、本人の状態に変化が生じた場合は、有効期間内であっても認定の変更申請ができます。

申請に必要なもの

要介護認定に必要なものは以下の通りです。市町村によって必要なものが異なる場合がありますので、申請を行う際には、必要なものについても事前に問い合わせておきましょう。

  • 介護認定申請書:各市町村で名称が異なることがあります。市役所の窓口やホームページでダウンロードすることで入手できます。
  • 介護保険被保険者証:65歳以上の場合
  • 健康保険被保険者証:40~64歳の場合
  • 本人確認書類:運転免許証などの身分証明証
  • 主治医の情報がわかるもの:診察券など
  • マイナンバーのわかるもの:マイナンバーカードやマイナンバー通知書

ステップ2:ケアプランの作成

認定が下りたら、ケアプランの作成を進めます。要介護と認定された場合は、主にケアマネージャーがケアプランを作成します。

そもそもケアプランやケアマネージャーとは何か、どのようにサービス内容が決まるのかを解説します。

ケアプランとは

ケアプランとは、介護(介護予防)サービス計画書のことです。どのような介護サービスを、いつ、どれくらい利用するのかを決める計画書を指します。利用する方の状態を把握したうえで、サービスの種類、利用回数、料金などを取りまとめて作成します。このケアプランの内容に沿って介護サービスの利用が開始されます。

要支援1~2と認定された場合は、介護予防サービスが利用可能です。地域包括センターに連絡して、相談しながらケアプランの作成を行います。

要介護1~5と認定された場合は、居宅サービスと入居サービスが利用可能。市町村の指定を受けた居宅介護支援事業者に依頼して、ケアマネージャーにケアプランを作成してもらいます。

入居型サービスを利用する場合は、入居する施設を決めて、その施設に所属しているケアマネージャーに依頼してケアプランを作成します。

ケアマネージャーとは

ケアマネージャーとは、介護支援専門員のことです。利用する人が適切な介護サービスを受けられるように、ケアプランの作成以外にも、介護施設との連絡や調整を行い、介護サービス全体をマネジメントして支えてくれる頼もしい存在です。

介護サービス利用開始後も、困ったときや聞きたいことなどは担当のケアマネージャーが相談に乗ってくれます。

ケアマネージャーは、お住まいの市町村の介護保険担当課や地域包括センターにて、居宅介護支援事業者リストから探すことができます。また、介護情報冊子「ハートページ」で探すことも可能です。利用したいデイサービス施設があれば、希望の事業所に直接連絡しても良いでしょう。どのようなサービスを受けたいか、どこの施設が良いかなど、あらかじめ希望をまとめておくとスムーズです。地域包括センターでは、ニーズや希望に合った事業所を紹介してもらうこともできます。

サービス内容の決め方

ケアプランには、利用する介護サービスの内容が記載されます。受けられるサービスの内容は、本人に必要な支援や、認定された要支援・要介護度によって異なります。例えば、要介護1で、歩く訓練をしたい方は通所リハビリテーションを利用。要介護3で、居宅サービス希望の方は訪問介護と介護用ベッドの貸与。同じく要介護3の方で、入居希望の方は特別養護老人ホームへの入居など。それぞれの状態や希望に合ったサービス内容を決めます。サービス内容を選ぶ際には、事前に施設の見学に行く、利用料を確認する、施設で提供されるサービス内容を確認するなど、事前にしっかりとチェックしておきましょう。

ステップ3:サービス利用開始

ケアプランの内容が確定したら、介護サービス事業者と契約して利用がスタートします。介護サービスにはさまざまな種類があります。以下に記載したもの以外にも、地域によってはさまざまな介護サービスが展開されていますので、お住まいの地域にはどのようなサービスがあるのか、探してみてはいかがでしょうか。

居宅サービス
  • 自宅で受けるサービス:訪問介護、訪問看護、通所・訪問リハビリテーションなど
  • 施設で受けるサービス:デイサービス、デイケア、ショートステイなど
  • 福祉用具のサービス:車いすや特殊ベッドなどの福祉用具の貸与、福祉用具購入費の給付、住宅改修費の給付など
入居サービス
  • 特別養護老人ホーム:原則要介護3以上、生活介護が中心
  • 介護老人保健施設:原則要介護1以上、介護やリハビリが中心
  • 介護医療病院:原則要介護1以上、医療と介護の複合ケアを行う

受けられる介護サービスはケアプランに記載されたものだけになるため、追加で利用したいサービスがある場合やサービス内容を変更したい場合は、ケアプランの変更が必要です。サービス利用開始後に変更したいことがあれば、担当のケアマネージャーに相談しましょう。

まとめ

高齢になると、ひとりで歩くことが難しくなった、もの忘れが酷くなった、薬の管理ができなくなったなど、さまざまな問題が生じやすくなります。介護が必要になる場面はいつ訪れるかわかりません。

介護が必要になるということは、本人だけではなく家族にも大きな負担がかかるもの。介護のために、仕事を休んだり辞めたりしなくてはならなくなったケースも多くあります。介護サービスは、本人はもちろん、その家族にとっても支えになってくれるもの。介護保険の制度を知っておくことは、いざというときにきっと役立つはずです。

高齢の家族の様子に気になる点がある場合や、将来に備えて準備をしておきたい場合は、まずお住まいの地域の相談窓口に連絡してみましょう。仕事や生活と介護を両立するため、家族みんなが快適に暮らすためにも、まずは一歩を踏み出すことが大切です。