介護がはじまってからじゃ遅い!親が元気なうちにやっておきたい「相続・財産管理」の準備とは?

介護はある日突然やってきます。まだまだ大丈夫だと思っていても、ケガや病気、思わぬアクシデントによって、急に介護が必要になることもあるでしょう。
また、少しずつ進行する症状は見えにくいため、「気づいたら要介護状態になっていた」というケースも少なくありません。認知症が進んだあとでは、本人の意思確認が取れずに、銀行や財産に関する手続きが困難になることも。
介護と相続・お金の問題は切っても切り離せない関係にあります。だからこそ、早めの準備が大切です。親が「元気な今」だからこそできる、相続や財産管理の準備について解説します。

介護が始まると起こる“思わぬ落とし穴”

介護において、思わぬ落とし穴とも言えるのが「お金」や「不動産」です。
要介護状態になると、親名義の不動産や預貯金の手続きができなくなる可能性があります。介護が始まる前に知っておきたい知識や注意点を解説します。

親名義の不動産が「売れない」問題

親が住んでいた実家が不要になった場合、親名義の土地や建物の売却を検討することもあるでしょう。
ただし、不動産の売却は原則として本人が行うもの。親名義の不動産の場合は、本人が判断できない状態では売却手続きができません。
認知症になった人が不動産売却や財産管理などの法律行為を行う場合には、「成年後見制度」の申し立てが必要です。成年後見制度は、判断能力に不安がある方を守るための制度として役立ちます。
ただし、制度を利用するには、まず市区町村の地域包括支援センターなどに相談し、家庭裁判所での申し立てを行うなど、時間面・費用面での負担がかかります。

預金が凍結されると生活費が出せない

介護では、介護用品の購入やリフォーム、介護施設の入居一時金など、大きな支出が必要になるケースが多くあります。介護に備えて、親自身が銀行口座にお金を蓄えていることもあるでしょう。家族としても、「いざとなったら親の口座にある預金を介護費用に充てよう」と考えている方も少なくありません。
しかし、認知症になった場合、口座の名義人が「認知症である」と金融機関に判断されると、預金口座が凍結されることがあります。預金口座が凍結されれば、たとえ家族であっても勝手に引き出すことはできません。認知症になると、頼りにしていた親の預金が引き出せなくなるリスクがあります。

今からできる!「相続」と「財産管理」の準備

介護が必要な状態になってからでは、不動産の売却や預貯金の管理など、さまざまな行為に制限がかかることがあります。いざという時に困らないように、今からしておくべき「相続」と「財産管理」の準備について紹介します。

まず確認しておきたい財産チェックポイント

もしもの時に備えて、まずしておきたいのが「財産の確認」です。
特にチェックすべきポイントは以下の4項目。親自身が把握できている今のうちに、親子間できちんと話し合い、確認しておきましょう。

銀行口座

どの銀行に、それぞれどのくらいの預貯金を持っているのかをリスト化するなど、口座番号ごとに洗い出しておくと良いでしょう。
また、通帳や印鑑の保管場所などを聞いておくこともポイントです。

収支

親が事業を行っている場合は、その事業内容についてもできる限り確認しておくことをおすすめします。
年金をもらっている場合は、年金受給口座、年金手帳、年金証書についても、必ずチェックしましょう。また、クレジットカードやローンなど借金等がある場合は、その内容についてもそれぞれ把握しておくことが大切です。

自宅や不動産の名義

自宅や所有している土地・建物がある場合は、その名義が誰なのかを確認しておきましょう。
本人の認識と登記簿上の事実が異なる可能性もあるためです。
土地や建物の権利書、不動産登記簿謄本などの保管場所とあわせて、正確な内容を把握しておくことが重要です。

医療・介護・生命保険の契約内容と受取人

医療・介護・生命保険に加入している場合は、契約内容や受取人についてチェックが必要です。
きちんと内容を把握しておかないと、入院や介護が発生した際に保険金を受け取れない可能性もあります。

任意後見制度の活用

成年後見制度は、認知症など判断力に不安がある方を保護・支援するために活用できる制度です。成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。
任意後見制度は法定後見制度よりも柔軟かつ自由度が高く、本人がひとりで決められる元気なうちに「信頼できる人」に将来の判断を委任することができるものです。

家族信託で財産の管理と承継をスムーズに

家族信託とは、家族による財産管理方法のひとつ。不動産や預金などの財産を「信頼できる家族」に託すことができる制度です。
契約によって、財産権は親のまま、財産を管理・運用・処分できる権利のみを子どもに渡すことができます。これにより、認知症になってからでも、親名義の不動産や預金の管理、運用、処分が可能になります。将来の相続トラブル回避にも有効な方法です。

遺言書で意思を明確に残す

遺言書では、生前に自らの意思で「どの財産を誰に渡すか」を決めることができます。遺言があることで、相続人それぞれの取り分が明確になり、寄与分や特別受益といった複雑な要素も考慮した分配が可能です。
一方、遺言書がない場合は、遺産は相続人による遺産分割協議のうえ、法定相続分を目安に分配されますが、寄与分が認められるかどうかで話し合いが長引くことも少なくありません。
こうしたトラブルを防ぐには、遺言書を残しておくことが大切です。相続争いを避け、家族の負担もぐっと軽くなります。
特に、公正証書遺言であれば無効リスクが低く、保管面でも安心して意思を明確に残すことができるでしょう。

介護のために今からできる生活面の準備

介護が始まる前であっても、いつか来る介護のための準備をすることができます。元気な今のうちだからこそ、親とのコミュニケーションを密にとり、財産や親の意思を確認しておくことが大切です。

親とのコミュニケーションを密に

介護や相続はデリケートな話であるため、なかなか話しにくいという方も多いでしょう。しかし、いつか訪れるときに備え「親はどうしたいのか」を確認しておくことは、子にとっても親にとっても大切なこと。意思確認のチャンスは、親が元気な「今だけ」です。
話し合いの場では、介護を誰に頼みたいか、利用したい在宅介護サービス、介護施設の希望、自分で判断できなくなった場合の財産の管理方法、もしもの場合に連絡をして欲しい人、遺産分割についての希望など、介護や相続についての希望や、そのために今のうちに対応しておくべきことなど、できるだけ細かく聞き取り確認しておくこと。あらゆる場面を想定して、コミュニケーションを密に取りながら話し合っておきましょう。

情報の共有と整理

通帳・保険証券・権利証などの所在は、親がきちんと覚えているうちに家族で把握しておくことがポイントです。「必要になったら聞けばよい」と考えがちですが、介護が始まってからでは手遅れになることもあります。
本人しか知らない口座や財産がないか、不動産の所有権や所有割合など、親が所有している財産の情報は家族で共有して整理しておくこと。もしものときに備えて、財産一覧や連絡先リストをまとめておくと良いでしょう。

まとめ|介護と相続の「備え」は家族の未来を守る行動

介護の準備とは、「お金」と「気持ち」の準備をしておくことです。親の介護に対して不安になる気持ちは、事前に備えておくことで緩和することもできます。
「何から始めたら良いかわからない」場合は、まずは親とコミュニケーションを密にとり、家族で一緒に将来について考えておくことから始めましょう。親が元気な今だからこそできることはたくさんあります。家族で共に考えて、対策や準備をしておくことが一番の「備え」です。早めに行動することで、家族の未来を守りましょう。