在宅介護のリアルと母が教えてくれた心の持ち方

介護職の経験もあるふみさんが、自身のお母さんが祖父母を支えた介護の日々について紹介してくれました。子育てと仕事、そして在宅介護を両立させながら悩み、工夫し、乗り越えたふみさんのお母さん。その姿を通して、介護に向き合うすべての人へ静かなエールを送ります。

ふみ(30代) 主婦
家族: 夫と0歳児の子ども
介護者:ふみさんの母
要介護者:ふみさんの祖父母(別居)
介護職経験を持つふみさんが伝える、母の介護の姿
私は特別養護老人ホームで、要介護3以上の方の介助をしてきました。食事や入浴、排せつ、移乗、口腔ケアなどの身体介護に加え、認知症の方や車いすの方のケアも担当し、早出・日勤・遅出・夜勤とすべてのシフトを経験。デイサービスでは要支援の方の歩行見守りやトイレ誘導もしていました。そんな介護の現場を経験した私から見た、母が祖父母を介護していたときのことをお話しします。
祖父母を支えた母の在宅介護と、その工夫のかたち
私の母は、祖父と祖母、2人の介護をしていました。いずれも要支援から要介護1~2程度で、自分で歩いて生活できる状態だったため、特別養護老人ホームやショートステイなどの施設は利用せず、在宅でヘルパーの協力を得ながら、仕事と介護を両立していました。
そして、私が高校1年生の頃、祖母がパーキンソン病かレビー小体型認知症を発症。母は祖父母の家に通い、様子を見たり、仕事を休んで病院へ付き添ったりしていました。しかし、祖母の症状が進行してきたため、祖父母は私たちの住むマンションに引っ越してくることに。
その後は、仕事が休みの日は母が介護を行い、仕事の日にはヘルパーさんやリハビリの先生に来てもらい、掃除・食事の支度・買い物・歩行訓練などをお願いしていました。サービスの利用は週2~4日ほどだったと思います。
通院は母が付き添い、のちに運転免許を取得してからは車で病院まで送迎していました。また、デイサービスの利用も検討しましたが、見学の際に祖母が嫌がったため、最後まで在宅での介護を続けていたと聞いています。
介護期間は、祖母の発症から通算8年ほどに及びました。
介護を理由にチャンスを諦めた母の苦悩と、その後の想い
母が特に悩んだのは、勤務先からフルタイム勤務の話をもらったときでした。
当時は、私たち子ども2人も成人しておらず、これから学費もかかる時期。母自身もフルタイムで働きたいという気持ちが強くありました。しかし、介護がネックになり、そのお話は断ることに…。
周りの同僚たちが次々とフルタイム勤務になっていく中、自分だけが介護のためにその道を諦めなければならないことに、やるせなさや悔しさを感じたそうです。フルタイム勤務の打診は滅多にないチャンスだったこともあり、断ったときには後悔も残ったと話していました。
また、祖父母を介護のために転居させたことについても、母は心を痛めていました。環境の変化によって病状が悪化しないか、寂しい思いをさせてしまうのではないかと、常に祖父母の気持ちを気にかけていたようです。本当にこれで良かったのかと、今でも思うことがあるそうです。
さらに、心の面では、先の見えない介護への不安が大きかったといいます。当時は祖母の病気についての研究も進んでおらず、はっきりとした病名もなかなかつかない状況。治療法も確立されておらず、薬の種類や量も手探りの状態で、効果や副作用に常に注意を払わなければなりませんでした。
通院先や担当医を選ぶことも母にとって大きな悩みでした。祖母は有名な先生に診てもらいたがっていましたが、人気のためなかなか予約が取れず、思うような治療が受けられないことも…。どの医師に診てもらうのが最善なのか判断が難しく、病院や先生を変えることも度々あったそうです。
負担を抱えすぎず、工夫しながら続けた母の介護生活
そのような介護生活の中で、母は負担の大きい部分はサービスを活用していました。料理が得意ではなかったので、ヘルパーには買い物と作り置きをお願いし、夜は宅配弁当を利用。負担を減らしながら介護を続けたとのことです。
また、ケアマネジャーさんやヘルパーさんとこまめに連絡を取り、サービス内容を調整したとも聞いています。祖母がヘルパーさんとの相性を気にすることもあったため、合わない場合は変更し、料理が得意なヘルパーさんを希望するなど、細かな要望も伝えていたそうです。
さらに、適度な距離を保つことで、心の余裕を保てたといいます。
仕事の時間は介護から離れて気持ちを切り替える貴重な時間となったし、職場でも状況を伝えて理解や協力を得ることで、精神的な負担を軽減していました。同じ境遇の同僚や私に思いを話し、気持ちを吐き出すことでリフレッシュもしていたようです。
介護と仕事の両立を通じて母が得たのは「忍耐力」「精神力」「コミュニケーション力」でした。母は、先の見えない不安に向き合い続ける強さと、周囲と上手く連携する力が身に付いたと言っています。その結果、再びフルタイム勤務の話ももらえ、職場からも認められるようになったとのことです。
介護は体も心も疲れるもの。自分を褒めることも忘れずに!
介護は本当にエネルギーが必要な仕事です。だからこそ、頑張っている自分を認めて褒める時間を大切にしてほしいと思います。
そして、自分の気持ちを素直に吐き出せる場を持つことも大事です。誰かに話すだけでも、心が軽くなります。もし身近に同じような立場の友人や知人がいれば、ぜひ声をかけてみてください。
そうした人や場がない場合でも、自治体や社会福祉協議会、地域包括支援センターなど相談できる場所はたくさんあります。気負わず、頼ってみてくださいね。
私自身も介護職の経験がありますが、休日は癒しの音楽を聴き、横になってエネルギーを充電することもありました。家事をする気力もなく、家族にまかせきりの日も。そんな経験から、介護の仕事は好きでも、体力と気力の消耗は大きいと実感しています。
だからこそ、まずは「よくやってる」と自分を認めてほしい。そして、活用できるサービスを駆使し、周りの人たちを遠慮なく頼る。それが介護を続けていくうえでとても大切なことだと、私は思っています。
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