介護離職の前に知っておきたいこと——“辞める=終わり”ではない希望の選択肢

高齢化が進む日本では、介護と仕事の両立にストレスを感じながら悩む人が増えています。
厚生労働省の「雇用動向調査」のデータによると、2023年に離職した人は男女合わせて798.1万人。そのうち、介護や看護を理由に仕事を辞めた人は7.3万人にのぼり、その約77%を女性が占めています。
介護を理由に仕事を辞めることは、決して失敗や後退ではありません。それは、大切な家族を守るための前向きな選択肢のひとつです。
とはいえ、介護離職には経済的・精神的なリスクやデメリットが伴います。だからこそ、可能な限り「仕事を辞める」以外の選択肢も考え、事前に対策を探すことが、介護者自身の人生や健康を守るうえでも大切です。ここでは、介護と仕事を両立するために知っておきたい制度やサービス、収入確保のためのおすすめの方法などをご紹介します。

なぜ「介護離職」が増えているのか?

介護による離職は増加傾向にあります。なぜ介護離職は増えているのでしょうか。誰にとっても他人事ではない介護離職の理由について解説します。

高齢化の急速な進行

日本では高齢化が急速に進行しています。2025年には団塊の世代が全員75歳以上となり、後期高齢者の割合は国民の約5人に1人。高齢化が進むことで、要介護認定を受ける人の数も増加し、被介護者は今後も増えていく見込みです。
40~60代の方は、親の高齢化に伴って介護が必要になるケースが増えてきます。働き盛りで責任ある立場にあっても、介護を理由に仕事を辞めざるを得ない人も少なくありません。

介護サービスの不足・使いにくさ 

介護施設などの利用希望者が増える一方で、サービスの供給が追いつかず、待機者が発生しているのが現状です。
さらに、地域によっては介護人材が不足していることも大きな課題のひとつとなっています。
介護サービス自体は存在していても、希望通りに利用するのが難しいケースは少なくありません。
また、制度が複雑で使いにくいと感じてしまい、介護サービスを利用せずに自力で介護を行っている人もいます。「この程度で利用して良いのかわからない」「何のサービスを利用したら良いのかわからない」と思ってしまい、介護サービスをうまく活用できず、結果として介護者が負担を抱えていることもあるでしょう。

企業の支援体制が不十分

国として高齢化問題への取り組みが進められてはいるものの、介護に対する理解や制度の整備が十分とは言えない企業も多いのが現状です。
「介護休職制度はあるけれど、実際に取得している人はほとんどいない」といった制度と実情の違いに戸惑うケースも少なくないのではないでしょうか。

また、職場に介護していることを打ち明けられず、支援を受けられていない人も見受けられます。
「介護で休むと会社に迷惑をかけてしまうのでは」「嫌な顔をされたらどうしよう」「昇進に響くかもしれない」と悩み、制度があっても活用できていないケースもあります。

終わりが見えない「不安」

介護に明確なゴールはありません。だからこそ、「いつまで続くのかわからない」「どれだけ仕事を休めばよいか見通せない」といった不確定さが、精神的・時間的・金銭的なプレッシャーになっていることも多くあります。先が見えないからこそ、「両立は無理」「辞めた方がラクかも」と感じる人もいるでしょう。

仕事を辞める前に考えるべき「3つのポイント」

介護離職は、ときに必要な選択となることもあります。
しかし、支援制度やサービスを上手に活用すれば、介護と仕事の両立は十分に可能です。
仕事を辞める前に知っておきたいポイントを、簡単にご紹介します。

1.制度と支援の活用方法 

企業等で働いているときに介護の必要が生じた場合は、まずは介護休業や介護休暇を活用しましょう。

介護休業

介護休業は、要介護状態の家族を介護するための休業制度であり、育児・介護休業法によって定められています。就業中の方が安心して介護に専念できる仕組みとして、介護を要する家族1人につき3回まで、通算93日まで休業が可能です。介護休業中に仕事と介護を両立する体制を整えることで、復職後の生活に備えることができます。

介護休暇

介護休暇は、通院の付き添いなど、短時間の休みが必要な場合に活用できる制度です。対象家族が1人の場合は年5日まで、1日または時間単位で取得が可能です。どちらも職場に申請することで取得できますので、必要な際にはまずはご自身の職場に相談すると良いでしょう。

介護保険制度による公的サービス

親や家族が要介護状態になった場合は、介護保険制度による公的サービスが利用できます。公的サービスの種類には、デイサービス、ショートステイ、訪問介護などさまざまな種類があり、介護される方の状態や介護者の生活に合わせたサービスを利用することで、介護と仕事の両立に役立ちます。
なお、介護保険制度を利用するには、「要介護認定」の申請が必要です。この申請手続きは本人または家族が行う必要がありますが、お住まいの市区町村にある介護保険担当窓口で、無料相談が可能です。まずは、お気軽に相談してみましょう。

介護保険を使ったサービスについては、以下の記事で詳しく説明していますので、ぜひ参考にしてみてください。

介護の不安を地域で乗り越える!自治体の介護サービスをフル活用しよう
https://ryouritsu.c-mam.co.jp/archives/column/398
介護保険を知る・使う・活かす!サービスの利用方法を完全解説
https://ryouritsu.c-mam.co.jp/archives/column/262

2.お金と生活の準備

在宅介護であっても老人ホーム等への施設入居であっても、介護にはさまざまなお金がかかります。
生命保険文化センターの「2024年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、介護に要した費用は以下でした。
 介護用ベッドの購入や住宅の改修などの一時費用で平均47万円
 月々の費用では、1か月平均9万円(在宅介護の場合は5.2万円、施設入所の場合はそれよりも高い13.8万円が平均額)
また、介護度が上がるにつれて費用も高くなっており、要介護4の場合は、月平均で12.4万円の費用がかかっています。個人差はありますが、家計への負担は少なくないと言えるでしょう。

介護サービスの利用額が高額となった場合には、高額介護サービス費制度の利用も可能です。高額介護サービス費制度とは、1か月に払った利用者負担が一定の上限額を超えた場合に、申請すると上限額を超えた分が払い戻される制度のこと。居宅サービスや介護施設サービスでは利用料が高額になることもあるため、利用できれば経済的負担を軽減できるでしょう。

また、介護を理由に仕事を辞める場合は、辞めた後の収入確保も考えておく必要があります。
退職後には雇用保険による失業給付金をもらうことができますので、対象となる場合はチェックしておきましょう。
新たな収入として、条件が当てはまれば年金の受給や、在宅ワークを始めるのもひとつの手です。
再就職を目指す方に向けては、国による再就職支援制度なども用意されています。介護と両立しながら、資格の取得など新たなキャリアを築くチャンスでもあります。これまでの経験を活かせる仕事を見つけることで、働きがいや充実感を得られることもあるでしょう。
介護と仕事を両立する場合の働き方のコツについては、以下の記事に掲載しています。

在宅ワークで無理なく安定収入!介護と両立する働き方のコツ
https://ryouritsu.c-mam.co.jp/archives/column/646

3.相談できる人・機関を把握しておく

もし家族に介護が必要になった場合に備えて、あらかじめ相談できる人や機関を把握しておくことが大切です。本人の希望や家族の状況を踏まえつつ、介護状態や認知症になった場合の対応、介護の役割分担などについて、家族でしっかり話し合っておきましょう。また、在宅勤務や時短勤務、休業などをする場合に、相談すべき上司や職場の窓口について確認しておくこと。家族の介護が必要である旨を伝えておくことで、いざという時に力になってくれる人がいるかもしれません。

また、地域の介護相談窓口や地域包括支援センター、ケアマネジャーに相談することもポイントです。各自治体ではさまざまな介護サービスが展開されているため、介護と仕事の両立もサポートしてくれるでしょう。ひとりで抱え込まず、相談できる人や専門機関に積極的に頼ることが、安心や解決につながります。
特に高齢の被介護者は、身体機能の低下により生活全般にサポートが必要となるため、介護サービスの選択や頻度も慎重に見極める必要があります。
自治体が提供する介護サービスについては、以下の記事で詳しく解説しています。さまざまなサービスの内容を紹介していますので、ご本人やご家族に合ったものを選ぶ際に役立ててください。

介護の不安を地域で乗り越える!自治体の介護サービスをフル活用しよう
https://ryouritsu.c-mam.co.jp/archives/column/398

希望を持てる“これからの介護と仕事”の関係性

近年ではテレワークや副業などの普及によって、「仕事か介護か」の2択ではない、柔軟な働き方が可能になってきています。企業の支援制度や法改正などによって、社会全体で介護を支える動きも出てきています。介護で使える制度をフル活用すれば、仕事を辞める以外にも、自分らしく働き続けられる、やりがいのある選択肢や可能性はたくさんあります。
「今は少しの時間しか働けない」と感じていても、介護の状況によっては働ける時間が増えることもあります。また、今取り組んでいる小さな仕事であっても、将来的には自分の未来につながる土台になる場合もあるでしょう。
介護というと、どうしても悲観的に考えてしまいがちです。ですが、介護があるからといって働くことをあきらめなくても大丈夫。「自分らしい働き方を考えるチャンスなんだ」と、自分の気持ちを大切にしながら前向きにとらえることが大切です。

介護と仕事を両立するには、何より「情報」と「準備」が大切です。活用できる制度について知り、あらかじめ準備や利用の検討をしておくことで、いざという時も悩まずに対応することができるでしょう。

まとめ

介護は突然始まり、終わりが見えにくいため、不安も大きいもの。介護を理由に仕事を辞めるという選択は、家族のためや自分の心身のために「必要な選択」のひとつでもあります。介護離職をするときに重要なのは、辞めた後をどう想定して動くか。希望ある選択をするためには、自治体などの制度、お金、人などの支援をうまく活用することが重要です。
さまざまな制度を活用することで、介護と仕事を両立することも十分可能です。近年では働き方の多様性に伴い、介護しながらでも働きやすい環境が整いつつあります。大切なのは、正しい知識を持ち、利用できる制度を知って上手に活用することです。ひとりで抱え込まないように、自治体のサービスや周囲の人を積極的に頼りましょう。